WAKUBLOCK 積木のいろは その魅力
この10年ぐらいでしょうか?積木や絵本は、子どもの教育に欠かせないものとして広く語られるようになってきました。(残念ながら、深く語られるまでは、至っていません。)アトリエの開校当時は、今ほどは、積木や絵本の重要性は、認められていなかったように思います。脳科学の劇的な進歩により、絵本の読み聞かせや、積木遊びによる脳への影響が科学的に裏づけされるようになったことも、その理由なのだと思います。
2008年のNHKすくすく子育ての調査では、子どもがよく遊ぶおもちゃの一位はボールで、二位は積木という統計結果がでました。多分、これは、過去50年くらい変わっていないのではないかと思います。実は、球の起源は、石器時代、大人が宗教か何かの目的でつくった石球で、それで子ども達が遊ぶようになったことが、ボールの始まりでないかと言われています。

人類の歴史を遡っても最も単純な形が、人間を楽しませてきた事実は、子ども達との体験を重ねる度に実感させられます。絵本も同じで民族が始まって以来、人々は、絵や言葉で民族の歴史や誇り、思想を語り継いできました。
前回の絵画で、アトリエの子なら誰でも知っている絵本“やさいのおなか”を読んで、何度となくモチーフになっている“くだもの”や“やさい”を半分に切ったものを見せた時も、私達大人が思うよりずっと子ども達の感性は、繊細で素直で敏感なんだということを教えられました。ただ半分に切った野菜や果物の断面を新鮮な感動として感じることができる、単純な変化だからこそ、そこに自らの発見が見出せることを、子ども達は直観しているようです。
最も単純な形であり、最も子ども達が触れる機会の多い球だからこそ、和久先生は、その素材、大きさ、重さ、色、そしてWAKUBLOCKには、欠かせない基尺、全てを追求して、ベビーボール、ママボール、ケルンボール、カラーボールなどの童具をつくりました。世界中が認めるイタリアのデザイナー、巨匠エンツオ・マリーニも「本質の追求を目指すことを忘れ、新しさを第一に求めることを認めない。誰が斬新なチーズや斬新な生ハムを必要としているだろうか。」と述べています。光るボールや、つかみやすいボールなど、斬新なデザインのボールは、子ども達が一瞬喜ぶかもしれませんが、それでは、球の本質をつかみとることができません。あらゆる球をつかったスポーツやゲームや遊びは、球の持つ本質的な科学的法則・秩序があるからこそ成立しています。
その法則にのっとると積木も同じで、複雑な形が揃えられているよりも、単純な形がたくさんあったほうが、子ども達がよく遊ぶということがわかってきました。私の知っている範囲ですが、それを最初に発見したのは和久先生です。球と同じように、六面をもつあらゆる形の中で最も単純な法則を持つ形は立方体です。単純であるからこそ、子ども達が触れる機会の多い形だからこそ、立方体ならなんでもいい、積木だったらなんでもいいというわけでは、ありません。これも球と同じで、単純だからこそ全てが追求されなければならないのです。
日本で一番読まれている絵本、赤ちゃんの為に描かれた松谷みよ子さんの「いないいないばあ」は、赤ちゃんがはじめてみる絵本だからこそ、その絵は、一流の画家が懇心の力を込めた本物でなければならないと画家の瀬田さんが絵を描きました。単純であるからこそ、選び抜かれた言葉と美しい絵が追求されています。“本物”と呼ばれるもので、簡単につくれるもの、まねをしてつくれるものは、ひとつもありません。まねは、姿形がおなじに見えても偽物でしかありません。子どもは、遊ぶことで色んなことを学んでゆきます。その遊びに使われるおもちゃが偽物でいいわけがありませんよね。それがそのままその子の感性をつくってゆくのですから。
おおげさな表現になりますが、和久先生が子ども達の手に届けるひとつの立方体は、和久先生が命を削って創りだした結晶です。平澤興という著名な医学者が残した「人生は、にこにこ笑って命がけ」という言葉があるんですが、偉業を成した人は皆、その言葉がピッタリだなあと思います。
白木の積木の中では、その精度、品質、形体の追求だけをとってもWAKUBLOCKが世界一であることは間違いないのですが、WAKUBLOCKと他の積木の決定的な違いは、立体の世界だけにとどめられていないことです。立体だけでなく、それを構成する面の世界、また面を構成する線・点の世界、また色の世界、その全てに幾何学的法則と数量的法則が用意されています。おもちゃの世界では誰もやらなかった多様と統一です。それはつきとめると、この世の中にひとつだけで存在しているものは何もない、全ては繋がっているんだよ、全てに関係性があるんだよということを子ども達に伝えています。
世の中の全ては、「特殊と普遍・部分と全体・具象と抽象・複雑と単純そしてそれらを全て包含する多様と統一」の中で成立しています。その観点から、アトリエの活動や童具を見て頂くと、子ども達がこの活動で何を得ているのか、なぜこんな活動をするのかをより理解して頂けると思います。(詳しくは、子どもはみんなアーティストp73~をご覧下さい。)
見る人によればただの木片にすぎない積木に命を吹き込むのは、ひとつの積木を追求した作家の思いと、子ども達の手でつくられてゆく創造の世界です。和久先生は、たくさんの子ども達と接してゆくうちに、創作するものがどんどん単純になり、○△□の世界へ行きつきました。「クリエーターは私ではなく、子ども達。私の積木は子ども達の手に届けられた時こそ、デザインが完成するのです。」(童具パンフレットの冒頭をご覧下さい。)と言っています。自己を主張するデザイナー、自分の表現方法としておもちゃという題材を選んだデザイナー、そういうことも必要であるかもしれませんが、人間の本質・子どもの本質をひもといた時、行き着く先が単純な形態へと立ち返っていった和久洋三の哲学的理念に基づいた童具の魅力は、理解する側にも感性が必要であると感じます。
知性だけでは本物は選べません。数ある情報の中で、本物を選ぶのは、その人のもつ感性です。そしてそれは子ども達へと引き継がれてゆきます。一人でも多くの子ども達にWAKUBLOCKが届けられることを願います。また、積木のいろはを揃えていらっしゃる方も、是非、一度お父さん、お母さんでじっくりと積木で遊んでみて下さい。何をつくっていいかわからないという方は、とりあえずパンフレットや童具共育を見て、同じものをつくってみて下さい。実際に手に触れているうちに、色んなアイディアが浮かんで、子ども達と同じように、創造の喜びを感じて頂けると思います。
人間は、創造して意欲している時が、一番幸せなんだそうです。子ども達は、その幸せをいっぱい感じて大人になって欲しいですね。これから迎えるクリスマスシーズン、今年のクリスマスツリーは積木でオブジェをつくってみるのもいいかもしれませんね。
2010.11.(1) アトリエ講師 星野 由香