入学、入園おめでとうございます。皆、またひとつ大きくなりましたね。とりわけ、新一年生の子ども達、お父さんお母さん達も、不安と希望でいっぱいなのではないかと思います。
アトリエも今年は新一年生が19名。1人1人の顔を思い浮かべながら、彼らの小学生活の第一歩が輝きに満ちたものとなるように祈っております。
私が入学した小学校は、当時、映画のシーンにつかわれそうな、築100年の木造校舎が残っていて、机や椅子もパイプではなく木でした。少し湿った空気と燐としたたたずまいが、今も肌の記憶として残っています。

自分の時よりも忘れられないのが、妹が一年生なる前のこと。妹は、思いついたことはなんでもまずやってみる子で、セーターの袖をちょんぎったり、電話をドライバーでバラバラに分解したりしていました。入学式の前日、何を思ったのか、新品のランドセルの背の裏側をカッターで切ってしまったんです。「どうして、そんなことしたの?」と聞くと「中味が見たかったから。」と言った後、わんわん泣き出しました。そんな妹を家族で心配して朝を迎えたのですが、ランドセルを見ると、妹は、カッターで切ったところに絆創膏を貼って大満足していました。「きっとモモちゃんのまねをしたんだね。」と家族で笑いました。その時、妹がお気に入りの「ちいさいモモちゃん」に水ぼうそうが治ったモモちゃんが、きゅうりさんのイボイボにおくすりをつけて治してあげようとするシーンがあるからです。私もあのシーンが大好きでした。それ以来、妹のランドセル事件は、お客さんが来たときに話す十八番の笑い話となりました。普通なら怒られる話、失敗の話が笑い話になったのは、我が家にモモちゃんがいてくれたからです。
先日、亡くなられた松谷みよ子さんの代表作「ちいさいモモちゃん」シリーズは、私達家族にたくさんの思い出と豊かな時間をつくってくれました。

今、あらゆるジャンルの絵本や児童書が出版され、おもしろいもの、魅力的なものは、いっぱいありますが、文学として、人間の普遍を一生を通して語り継ぐ名作となると限られてきます。
とりわけ、本への扉を開く一年生や低学年の選書、絵本から物語の橋渡しは、非常に難しいと感じます。低学年の間に、これだけは、出会って欲しいという定番中の定番の児童書のリストをつくりましたので、お持ちでない本がありましたら是非、ご注文下さい。持っている方も多いので、他にもこんな本を読んで欲しい本を絵本の部屋に並べてありますので、ご覧になって下さい。

とても古い冊子に、1人読みをはじめる子どもの心にどう沿うのかを、見事に書いてある文章を見つけたのでご紹介します。

1人で本を読みはじめたばかりの子どもにとって、まず大切なことは、安心できる場所にいて、ある程度まとまった時間を、本と向かい合ってすごすこと。1人で本を読む、というのは、1人で知らない世界に入っていくことですから、子どもによっては、「1人でおつかいに行く」くらいの冒険に感じているかもしれません。不安や、気が散ることがあると、すぐに引き返したくなる(つまり、本を閉じてしまいたくなる)かもしれないのです。
でも、ほんの世界にいったん入り込むことが出来れば、そこには違った時間が流れていて、読み終えたときには、遠くから帰ってきたような気がするもの。そんな豊かな時間を過ごす習慣が身につけば、それは一生の宝物。「1人で考え、決断する」力にもつながっていくでしょう。
子どもが本に夢中になっていたら、どうぞしばらく声をかけずに(感想を聞いたりもせずに!)見守ってあげて下さい。そのあいだに、子どもの心の中では、生きていく助けになる力が、ぐんぐん蓄積されているのですから。 (編集部 上村 令「1人で本を読みはじめたら」より抜粋)


2015年度、1回目の活動は、例年通り、球から始まります。子ども達の「できた!」の声を楽しみにお待ち下さい。本年度もスタッフ一同、子ども達の心に沿い続けられるアトリエでありたいと思います。

2015.4.(1)アトリエ講師 星野 由香