緊急事態宣言が解除されましたが、もとに近い生活へと回帰するには当分の時間が必要であろうと思います。これからの世界が大きく変化していくことはわかりますが、どうなっていくのかは今のところ誰にもわかりません。どの国もこの初めての事態に、はっきりとした方針を立てられずにいると思います。コロナのことがなくても、世界がこのまま突き進んでいけば、いずれはなんらかの崩壊がおこっていただろうと思います。自然はもう修復のできない状態となり、絶滅する生き物はどんどん増えて、人間も存続できないような環境になる日はそう遠くはない未来であったのかもしれません。今、経済が止まったことを人間中心に考えなければ、いい環境になり喜んでいる生き物は、そう少なくないのかもしれないですね。視点を変えて視野を広げれば違うものが見えてきます。


前回のアトリエ通信にも書きましたが、アトリエの子達はステイホームの間、退屈とは無縁の生活をしていた子が多く、むしろ“やりたいことがいっぱいあって大変”という声がたくさん届きました。あるお母さんからは「アトリエの子は、非常事態化でも、たくましく乗り越える力がありますね。学校に行けず、私は仕事があるから相手もできず、時間を持て余してどうなってしまうのか・・・と初めは心配もしていましたが、二人とも「毎日やることがいっぱいあって忙しい」と言うのです。アトリエに通ったおかげだ!とすぐに思いました。
この非常事態を乗り越える為に、小さい頃から通わせていたのではないかと思うほどです。本当にアトリエは、素晴らしい存在ですよね。先生たち頑張ってください」というLINEを頂きました。1歳から通ってくれてお姉ちゃんは中学生、妹も6年生になっています。二人共読書家で素晴らしいお子さんに育っています。たくさんの卒業生のお母さん達からの同じような内容のLINEをたくさん頂き、これからの時代はコロナ前以上に、やりたいことがあるということがすでに大きな価値であり、そのモチベーションの高さが発想力を後押しし、新しい価値を生み出していく、生きる力を支えていくということを強く実感し、またゆるぎない確信を持ちました。


世界はあまり前向きになれるような情勢ではありませんが、今こそ教育を犠牲にせずに、優先して取り組んだ国が、後の世界をつくっていくのだろうと思います。現在の状況を見ていても、成熟している国はこんな時でも教育と芸術を忘れていません。文学も含め芸術が日常に溶け込んでいる暮らしがそこにあります。松方幸次郎が「日本人に、本物の芸術を」と美術品の収集にヨーロッパをかけめぐったのは昭和初期。「美術館があってこそ日本という国が本当に豊かになる」と美術館をつくる為に翻弄しました。松方の活躍により国立西洋美術館が日本にできたのが1957年(日本で最初の美術館は1952年)。そして同時期、日本でも今の形体の絵本が読まれ始めました。日本で絵本の読み聞かせが子育てに当たり前のことになったのは、歴史的時系列で言えばここ最近のことと言えるでしょう。

そこには、日本の文化教育が豊かになってきた背景があると思います。今こそ、この流れを止めず、子ども達の教育環境を整えて、これからを生きていく為の底力を育てる時です。いやいやながら怒られてやる勉強、ご褒美のゲーム時間ユーチューブ時間の為にやる勉強が、子ども達をいざという時に助けてくれる学びとなり、力となっていると確信をもって言えるでしょうか。学校の勉強をおろそかにしていいということではなく、それだけではなくて、これからを生きていく子ども達の、血となり肉となっていく本当の生きる力の育ちを、我々大人は今こそ真剣に考えなくてはなりません。心豊かで力強い学びの土台を子ども達の心の芯に築いていけるように環境を整えていきましょう。生きる為の底力がなんとしても必要です。その為に我々も全力を尽くします。きっとアトリエの子ども達は、どんな時代がきても明るい未来を築いていってくれます。こういう時代が来てしまった以上、これまでよりも、そう育てなければなりません。


私達アトリエスタッフもこれまで以上に、子ども達の心に沿い、これからの子ども達の育ちを一人ひとり見守り、これまでよりも強い思いで、子ども達のアトリエ活動に取り組んでまいります。共に子ども達の生きる力を覚悟をもって育てていきましょう。


2020年6月①アトリエ講師 星野由香