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今、STEAM教育が話題になっていますね。この教育の方針は世界に通用する人材を育成する為に“現実の問題を解決に導く力 ”“今までにないものを創造する力 ”を育てることなのだそうです。以前はScience化学・Technology技術・Engineering工学・Mathematics数学のSTEM教育(理工系)と言われていましたが、AI時代にこそ想像力・創造力=感性が重要になるという視点から近年、先進国ではSTEM教育にArtを加えたSTEAM教育が注目されるようになりました。

子どもの世界のアートと言うと、一般的に図画工作の授業や今で言うと“プログラミングでアート”みたいな安直な感じがイメージされてしまいますが、STEAM教育の立場でのアートとは、アトリエでやっているようなことなのではないかと思います。

レオナルドダヴィンチが500年前から実践しているように、本来、アートと化学は親和性が高いものです。例えば前回の石こうレリーフは石こうが加水されたことによって発熱して硬化する化学反応です。その様子を子ども達は見て触れて作品をつくっています。積木も数量的・幾何学的また物理的要素の高い遊びであり、いずれも数式や化学式であらわすことが可能です。何よりものづくりや芸術表現によって生み出される好奇心や探求心は、新しい物を作り出そうとするモチベーションを生み出します。その力はアトリエで育つもののひとつかもしれません。

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新しいものを生み出す(創造する)為には、かなりのエネルギーがいります。何のためにそれが必要なのか、それをつくることによって何が解決できて誰のためになるのか、自分は何が伝えたいのか、そういうモチベーションがあってこそ、新しい世界を創り出す意欲が湧いてきます。そうなるためには、好きの力と本物との出会いが必要です。子どもは好きなことには、何も言わなくても何時間でも集中し、好奇心と探求心の塊になります。それはとても大切なことで、とるにたらないことのように思えても、安易に大人が子どもから奪ってはいけないことです。ただ、一つのことを本質が見えてくるまで追及するにはどうしても本物の環境が必要になってきます。安易で表面的な世界観からは、のめり込んで何かを生み出したい、本質を知りたいというエネルギーは湧いてこないからです。それでは本当の好きにはなれません。そう思った時、好きなことがみつからない、やりたいことがわからない、という子どもが多いことも納得がいく感じがしました。好きなことをとことんできる環境も、本物と出会える体験も、今の子ども達には圧倒的に少なくなっているからです。そう思うとアトリエの存在は益々貴重であると思いました。

先日のコペルクラスでは、積木でサンタさんのくる家をつくりました。どこを切り取ってもポストカードになりそうな美しい街ができました。子ども達の生み出した積木の世界は、間違いなく世界でここだけの体験です。この体験にこそ価値があり、この創造活動の積み重ねでたくわえた文化資本は、子ども達が創造的に生きてゆく為の大きな力になってゆくでしょう。また、園や学校にはない非日常が生活の中にあるということは、知らず知らずのうちに、“今、世界はここだけじゃない”という広い視野も育てています。

本物には、積木や絵の具が好きか嫌いかということを飛び越えて、子ども達を集中させる力があります。この頃そのことがものすごく大事なことなんだと思うようになりました。何をするかよりも、それが本物であるのかどうか。そこに子ども達が自分で発見し、創造する世界があるのかどうか。無我夢中になってのめり込んでいくものがあるのかどうか。身体表現や音楽活動などもふくめ自分で何かを生み出すこと、表現することが嫌いな子どもは本来一人もいません。人間の本能として自分で発見すること、つくりだすことに喜びを感じるからです。教えられるのではなく、自分で発見することが重要です。その発見の喜びが新しい創造活動を生み出します。子どもの世界に発見と創造を繰り返し探求できる豊かな時間と本物の環境があることの重要性を思います。

よく聞く話しですが、テクノロジーの急速な進展により、日本の労働人口の約49%がついている職業がAIに代替えされる可能性が高いということが言われています。そんな時代において、“やりたいことがある”“追及したいことがある”ということはすでにそれがひとつの価値になります。好きの力と本物が持つ力は、私達が思うよりも子ども達を支える大きな力となってゆくことを思います。

2019年12月①アトリエ講師 星野由香